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特別展「芹沢銈介・文字デザイン」レポート

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緑燃ゆる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。SMMA事務局吉田です。
今回は東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館で開催中の特別展「芹沢銈介・文字デザイン」のみどころをご紹介します。

 

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今回の特別展は、芹沢銈介にとって特に重要なモチーフである「文字」に注目し、芹沢の生み出した文字デザインを〈いろは〉〈丸紋〉〈布文字〉〈ことば〉〈文字絵〉の5つのテーマで紹介しています。

芹沢の手がけた文字デザインの面白さは、文字の持つイメージの広がりがそのままデザインに現れているところにある、と思います。
例えば一枚の布によって文字の形をつくり出す〈布文字〉のデザインは、布の裏表に縛られない配色によって文字が立体的に描かれ、布の翻る様子からは文字そのものの持つ躍動感が感じられます。
また〈いろは〉や〈文字絵〉のように、文字が持つイメージを図案化し、文字とともにデザインに取り入れる手法は、見る者にイメージを膨らませさまざまな解釈を引き出させてくれます。

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▲芹沢がデザインした〈布文字〉の数々。布の端の翻り方ひとつで、文字そのものの印象も変わってくるようです。

 

芹沢の独創的なデザインは、のんびり会場を巡るだけでも楽しめるもの。しかし今回はさらに特別展を楽しむためのヒントを探るべく、6月4日(土)に開催された講座「芹沢銈介を知る —作品と技法—」に参加してきました。

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この講座は特別展関連講座「芹沢銈介を知る」の第1回目。学芸員の奈良綾さんが、芹沢銈介自身のことばにふれつつ芹沢の年表をたどりながら、芹沢の美に対する考え方や作品の変遷について解説してくださいました。

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芹沢銈介は1895年(明治28)、大石家の次男として静岡市に生まれました。大石家は芹沢を含む七人の兄弟ひとりひとりに乳母がついていたほど裕福な家庭だったそうです。祖父と父は遊芸や書に長け、芹沢も例に漏れず達筆であったとか。こうした祖父や父からの影響が、後の文字デザインへと繋がっていったのかもしれません。
画家を志し、美術学校への進学を希望していた芹沢でしたが、生家の全焼によって家産が傾き、やむなく東京高等学校工業図案科に入学。画家になりたいという芹沢少年の熱意は、後ほどご紹介する「型絵染」の手法に繋がっていきます。

 

芹沢銈介の芸術観に最も影響を与えたのは、民藝運動の創始者・柳宗悦でした。1927年(昭和2)、朝鮮へ向かう船のなかで柳宗悦の論文「工藝の道」を読んだ芹沢は、芸術品と工藝品に対する美の格差への疑問、「美とみなされない工藝品にも用いることで宿る美がある」といった柳の考え方に感銘を受けます。
その数年後、芹沢の収集した民芸品コレクションの評判を聞きつけた柳が芹沢を訪問し、以来二人は終生親しい交流を持つことになります。

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今回の特別展では、こうして芹沢に多大な影響を与えた柳宗悦にちなむ作品も展示されています。柳が装幀を依頼した雑誌「工藝」の表紙(1号〜12号)、柳の言葉や肖像画を図案に取り入れた作品の数々は、芹沢にとって柳の存在がいかに大きかったかを伝えます。
なかでもごらんいただきたいのは、柳の死後に制作された作品「今日空晴れぬ」。柳や友人とともに沖縄を訪ね、地元の染色技法「紅型」の技を学んだ時の思い出を込めたのか、真っ青な空の下にうちくい(琉球の風呂敷)の紅型が並ぶデザインとなっています。沖縄の色彩が踊る作品の真ん中には、「今日空晴れぬ」、と柳のことばが白く鮮やかに染め抜かれています。

 

その後、民芸や先人から得た技を活かし独自のデザインを作り出していった芹沢は、1956年(昭和31)に「型絵染」の人間国宝に認定されます。講座では工房で実際に使われていた道具を紹介しながら、型絵染の技法について解説する場面もありました。

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型絵染には下絵から完成まで多くの工程がありますが、多彩な色で布を染め分ける「色挿し」に重要なのが右の写真でラップにくるまれている糊です。

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たとえば布の背景だけを青く染める時には、写真の左側のように、青色で染めたくない部分(模様の部分)にあらかじめ糊を置いておきます。

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そうして布を染めて水で洗い、糊を落とすと、写真左端のように背景だけが綺麗な青色に染まるというわけです。

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ところで「型絵染」は、人間国宝の認定にあたって芹沢の技法を指し示すために新たに作り出された言葉でした。そのことについて芹沢は次のように述べています。

同じものを、作りたくない、という気持ちがあるので、同じ型で染めるときも、自由な気持ちで、そのとき、そのときに、染めたい色で染めてしまいます。ですから、世間で私のを〈型絵染〉といわれているのは、つまり、絵を描くような心持で、型を使う、創作的な型染めということだと思います。 (芹沢銈介「暮しの手帖」第17号 1972年4月1日発行)

画家になりたいという夢を果たせなかった芹沢は、時を経てもなお「絵を描くような心持」、つまり画家の気持ちで創作を続けていたのではないか、という奈良さんのお話で講座は幕を閉じたのでした。

ついでながら、特別展には同じ型で染められている「布文字春夏秋冬二曲屏風」が二点、展示されているのですが、「同じものを、作りたくない」という芹沢のことばのとおり配色が全く異なっています。ぜひ見比べてみてくださいね。

 

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このように、今回の特別展は芹沢の独特な文字デザインを楽しむだけでなく、芹沢の美への想いや創作の姿勢を作品から垣間見ることができます。会期中の土曜日には、布文字にいっそう親しめるワークショップが1階のミュージアムショップで体験できます。(詳しくはこちら

特別展「芹沢銈介・文字デザイン」は、7月16日(土)まで開催しています。

 

◆おまけ◆

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芹沢銈介のコレクションから成る二つの併設展では、芹沢が認めた古今東西の逸品が展示されています。
おすすめは「日本の文字紋様」の展示室に並んでいる牛王宝印。熊野三山などで配布される紙札なのですが、札の文字や装飾が烏のシルエットを組み合わせて作られた独特なデザインをしているのです。壁にずらりと並んだ牛王宝印、お見逃しなく。

 

 

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