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SMMA取材レポート 仙台市富沢遺跡保存館ミュージアムスペシャル体験 「2万年前の森に降り立つ!地底の森探検ツアー」

SMMA取材レポート
仙台市富沢遺跡保存館ミュージアムスペシャル体験
「2万年前の森に降り立つ!地底の森探検ツアー」
8月31日
写真と文:佐藤泰(前せんだいメディアテーク副館長)

今回のミュージアムスペシャル体験参加者で「地底の森体験ツアー」を希望したのは4組。きょうの参加者はそのうちのひと組で、3才の坂本蒼樹ちゃんとご両親の3名だ。まだ未就学の小さな参加者に、どんなふうに楽しんでもらえるだろうかなど少し気をもみながら会場に向かう。展示室に入ると、遺跡のかたわらで佐藤祐輔学芸員による特別レクチャーがすでに始まり、飛び入りの入館者もいっしょに、話に聞き入っているところだった。
1988年、現在の地表面から約5m下の地層から、氷河期にあたる2万年前の森林とそこで暮らした旧石器人の野営の跡がそのままの状態で発見された。世界的に貴重な遺構を発掘されたままの状態で保存しつつ、広く公開するために1996年保存館は開館した。保存することと公開することを両立させるのはきわめて難しい。開館後も続く、劣化を防ぐ薬剤や保存環境の改善の取り組みを、苦労話を交えながら佐藤学芸員は説明してくれた。すこし難しい話も、これから始まる特別ツアーの予備知識だと思えば、自然に頭に入ってくるような気がする。

ひととおり予備知識を学んだ後は、さっそく地底への旅のスタート。保存展示されている遺跡は、周囲を取り囲むように作られた観覧者のための床から約1m下にある。私たちが降りるのは、その隙間、床面と遺跡面のあいだにあるメンテナンス用のスペースである。スタッフ専用のハッチをあけ、地下に通じるはしごを降りると、足下は冷たく湿気を帯びた地面だった。仕切られてはいるが、遺跡とほぼ同じ高さで、目の前には2万年前の光景がひろがる。高さ1m弱のスペースで、頭を気にしながらしゃがんだままの姿勢で進む大人たちを尻目に、蒼樹ちゃんはどんどん奥に行く。人一倍体の硬い私の膝は、いつのまにか湿地で転んだあとのように泥で濡れていた。

佐藤学芸員にうながされ、おそるおそる遺跡の土や木に触ってみる。保護のための薬品で完全に覆われているのかと思ったら、土も木も本来の柔らかさとぬくもりを感じる。しかし保存処理がなければ、これら木々はあっという間にひからびて形を失うはずだ。それを食い止め、2万年という気の遠くなる時間の重さを封じ込めるために、この場所の戦いが日々続いているのだ。なんだか浦島太郎を思い出す。私たちの社会が、いや未来の人々が、不用意に玉手箱を開けてしまわないことを願う。蒼樹ちゃんは、そのことをきっと未来の人々に伝えてくれるだろう。

探検を終えた帰り際、佐藤学芸員から、石器時代と同じ材料、同じ方法で作った、黒曜石による矢じりをプレゼントされた。地底の森ミュージアムでは学芸員はじめボランティアの人々が、研究もかねて復元技法による石器づくりの技を磨きあっている。プレゼントされたのはその中でも珠玉の逸品だ。
ご両親にお聞きしたら、今回のスタンプピクニック参加はなんとまだ3才の蒼樹ちゃんが興味をもったことがきっかけだったそうだ。いっしょに興味をもった同い年の友達がいたことも手伝って、ピクニックを歩ききることができた。まだ幼い目に映るものは、大人のそれとは違っていたにせよ、3才にしてご両親とミュージアムを巡り、今回のような貴重な体験をしてくれたのは本当にうれしい。ミュージアムは学校と違って入学も卒業もない。利用したければいつでも何度でも行ける。そしてその都度、発見したり感じたりすることは違うはずだ。好天の日曜日、探検を終えて館庭にある「氷河期の森」に手を取り合って向かう親子を見送りながら、大人になった蒼樹ちゃんが、世界中のミュージアムを楽しみ、活用している姿を想像した。きょうという日を体験した三つ子の魂よ!永遠なれ。ミュージアムは、このような小さな出会いをうけとめ、大切に育てることのできる場でなければならないとあらためて思う。

 

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