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SMMA見験楽学ツアー⑤「井上ひさしと吉野作造をつなぐ旅 仙台・古川バスツアー」レポート

仙台市内外の知られざる魅力を探るツアー企画「SMMA見験楽学ツアー」。2017年3月4日(土)には、第5弾「井上ひさしと吉野作造をつなぐ旅 仙台・古川バスツアー」を行いました。このレポートでは、案内人をつとめた私、仙台文学館の三條がツアーの様子を報告します。

 

午前9:30に仙台駅東口を出発したバスは、まず仙台文学館を目指します。仙台文学館は、郷土ゆかりの文学者を中心に、その作品や資料を収集・保存し、調査研究や展示などの活動を通じて、一般に公開することを目的として開館しました。台原森林公園に隣接しているため、建物の外では、四季折々、豊かな自然がお楽しみいただけます。その仙台文学館の初代館長を9年にわたって務めたのが、『ひょっこりひょうたん島』や『吉里吉里人』などの作品で知られる小説家・劇作家井上ひさしです。まずは、井上ひさしの経歴を知るため、3階の展示室に上がります。

 

3階の常設展示室では、宮城ゆかりの作家たちの作品や資料を紹介しており、井上ひさしのコーナーもあります。パネルで井上ひさしの経歴を紹介しながら、吉野作造との接点・共通点についてご紹介しました。吉野作造は、大正デモクラシー運動のオピニオンリーダーとして知られる政治学者で、「民本主義」という考え方を世に広めつつ、YMCAを通じた社会福祉活動を行い、人々の平和で豊かな暮らしの実現に力を尽くした人物。実は、仙台一高出身の井上にとって、吉野作造は高校の先輩(吉野が通っていたのは前身の宮城県尋常中学校)にあたります。また、ここでは井上が1998年に吉野作造記念館の名誉館長に就任していることや、「民本主義」を中心とする吉野作造の思想にも共感を寄せていたことなどについても、お話ししました。

 

続いて、企画展示室へ移動します。現在は、井上ひさしの生涯を「音楽」の視点から辿った、企画展「ドラマ・ウィズ・ミュージック~井上ひさしの音楽世界」を開催中です(2017年4月9日まで開催)。井上が子どもの頃から生涯にわたって親しんだ作曲家・ガーシュインの資料や、自宅の書斎に保管していたハーモニカなどの貴重な資料をご覧いただきました。熱心に説明を聞いてくださる参加者の方々を前にして、解説にも熱が入ります。

展示室で最後にご紹介したのが、このツアーの目玉の一つ、井上ひさしが吉野作造を主人公に描いた評伝劇『兄おとうと』の創作資料です。この作品は、吉野作造とその弟・信次の「兄おとうと」と、作造と信次の夫人で姉妹でもある玉乃と君代の「姉いもうと」を中心にさまざまな「事件」が起こり、その思想や立場のちがいから作造と信次が徐々に対立していく、という物語の音楽劇です。創作メモからは、説明的にならずに、いきいきとした人物として吉野作造を描くために、考え抜いた様子がうかがえます。

仙台文学館では、井上ひさしの経歴や、『兄おとうと』という作品を通して、井上から見た吉野作造を解説してきました。では、実際の吉野作造は、どのような人物だったのでしょうか?と、予告をしたところで、文学館での案内は終了です。次なる目的地である大崎市古川の吉野作造記念館を目指し、バスへと乗り込みました。

 

古川は吉野作造の生まれ故郷であり、少年時代を過ごした場所です。この古川に、吉野の顕彰・研究施設として吉野作造記念館が開館したのは1995年のことでした。記念館では、豊富な資料を通じて、吉野の生涯と功績を学ぶことができます。また、1998年から2009年まで、井上ひさしによる吉野作造講座も開講されていました。さて、12:00に古川に到着し、いよいよ吉野作造記念館へ……と行きたいところですが、その前に腹ごしらえが必要です。昼食は、記念館から数百メートルほどの「旬菜酒楽かぐら」で、立派な焼きサバとまぐろの山かけをいただきました。おいしい料理を目の前に、ツアー参加者の方々のお話も弾みます。

食事を終えたのちは、引き続きおしゃべりを楽しみながら、記念館へ向かって歩きます。歩くこと5分。到着した吉野作造記念館で出迎えてくださったのは、学芸員の小嶋さんです。ここからは小嶋さんの解説で、記念館を見学していきます。

 

研修室に集まり、着席すると、小嶋さんの解説が始まりました。井上直筆の吉野作造の年譜や、吉野作造の当時の写真を見せていただきながら、『兄おとうと』についてお話しいただきました。さらに、「われらが同時代人 吉野作造」と題されたドラマ仕立ての映像を観たことで、遠い存在だった吉野作造がだんだんと身近に感じられてきます。

 

映像を観終えて、常設展示室へ移動します。室内は円形に近い特徴的な形をしており、「どこからでも見始めることができる」というユニークな展示となっています。内容は、トピックごとに分かれており、参加者の方々は思い思い興味のある場所へ。小嶋さんが各所をまわりながら、解説をしてくれました。豊富な資料を堪能し、建物を出ると、敷地の広場で子どもたちがキャッチボールをして遊ぶ姿が……。地域の方々と記念館との距離の近さを感じました。吉野作造記念館をあとにした一行が、最後に向かったのは緒絶橋(おだえばし)です。

 

緒絶橋は、大崎市古川を流れる緒絶川にかかっている橋で、中世より歌枕として和歌に読み込まれてきました。なかでも有名なのは、藤原道雅が詠んだ「みちのくのをだえの橋や是ならんふみみふまずみこころまどはす」という歌で、『後拾遺和歌集』に収められています。道雅や芭蕉をはじめ、多くの歌人・俳人がこの橋に思いを馳せました。

 

ここからは自由見学の時間です。緒絶橋には、慶応時代の蔵を利用した展示室のある「大崎市民ギャラリー緒絶の館」や、大崎市観光物産センターが隣接しています。3月4日ということもあり、蔵には大きなつるし雛がたくさん飾られていて、圧巻です。参加者のみなさんも目が釘づけでした。この時間に、各々お土産も購入し、いよいよ仙台へ帰ります。

さて、「井上ひさしと吉野作造をつなぐ旅」はこれで終了です。井上ひさしは、過去の講演で吉野作造について次のように述べています。「みんな忘れている思想家の中に、実は今日的問題をきちんと踏まえて、何十年も前に答えを出している人がいた」「今日的な問題をたくさん含んだ、この先のことも含んだ、すばらしい論文をたくさん書いた学者がいて、その学者のものはいまでもちゃんと読めるということを皆さんにお伝えして、私の話を終わります」(『この人から受け継ぐもの』)。井上ひさしも吉野作造もともに、「今日的問題」について、生涯を通じて考え抜いた人たちでした。今回のツアーを通して、参加者の方々に彼らの本を手にとっていただけたら幸いです。

 

 

(仙台文学館・三條)

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