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芹沢銈介と「イソップ物語」

【芹沢銈介「伊曽保物語屏風四曲屏風」絹本型絵染 1934年頃 151.5×156.0】

型絵染の人間国宝・芹沢銈介の作品のモチーフは、訪れた先の風景やその地に住む人々、静物、動植物、自身が蒐集したものなど多岐にわたりました。芹沢作品の中で、特に動物と関わりがあるものといえば、動物たちが主人公の寓話「イソップ物語」を題材にした作品「伊曽保物語四曲屏風」が挙げられます。

この屏風には12個の円形の窓絵が配されていますが、それぞれ目を凝らして見てみると、その中にたくさんの動物や昆虫、植物をみることができます。
第3扇(右から3面目)の中段(上から2番目)には、花の中ですやすやと眠るうさぎと、草かき分けて進むカメの姿を見つけることが出来ます。すぐ何の話か分かりますね。イソップ物語の中で、誰もが知っている「うさぎとカメ」のお話です。油断しているウサギの寝顔はどこかあどけなく、遅いながらも着実に歩みを進めるカメの、まっすぐ先を見つめる真剣な顔が対照的です。

【伊曽保物語屏風中のうさぎとカメの図】

第2扇の中段の話は、キツネがコウノトリを食事に招待しておきながら、平たいお皿にスープを出し、長いくちばしのコウノトリが食べられないように意地悪をするところから始まります。しかし、そのお礼と称してキツネを食事に招待したコウノトリが、首の長い壷にごちそうを入れて、キツネが食べられないようにするという相応のもてなしで仕返しをします。首の長い壷とうなだれるキツネ、勝ち誇るコウノトリの姿には、1画面の中に寓話の内容を集約する芹沢の高いデザイン力が見られます。

第1扇(右から1面目)上段から 「鹿の水鏡」「バラとけいとう」「牛とねずみ」
第2扇(右から2面目)上段から 「牛と心棒」「キツネとコウノトリ」「蟻とセミ(キリギリス)」
第3扇(右から3面目)上段から 「キツネとぶどう」「うさぎとカメ」「カニの親子」
第4扇(右から4面目)上段から 「ロバとキリギリス(セミ)」「葦と柏」「キツネとカラス」

届かないところに生っているぶどうを見て「あれは酸っぱいぶどうだ」と負け惜しみをいうキツネの話「キツネとぶどう(酸っぱいぶどう)」など、中には知っている話もあると思います。芹沢が制作した「イソップ物語」12話分の窓絵の中で、もし知らないお話があれば、「イソップ寓話集」を読んでみるのも楽しいのではないでしょうか。
昭和7(1932)年に行われた染職新作家展(第1回新興民芸展)に出品されたこの屏風は、陶芸家バーナード・リーチの旧蔵品です。陶器制作において、動物のモチーフをよく用いたリーチが好んだのも、やはり動物がモチーフになった「伊曽保物語四曲屏風」でした。
芹沢は愛犬をモデルにしたハガキや、自宅にふらりとやってきた猫をユーモラスに描いた板絵なども残しています。動物を愛らしく表現した作品から、芹沢銈介が大変な動物好きであったことが伝わってきます。

次回は、仙台市縄文の森広場からの予定です。どんな動物に関するレポートかお楽しみに。

東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館 学芸員 奈良 綾

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