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芹沢と花

Fig.1 芹沢銈介作「草花文二曲屏風」1938年頃 東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館所蔵

芹沢銈介作「草花文二曲屏風」
紬地型絵染
1938年頃 制作
167.8×173.1[㎝]
東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館所蔵

屏風を開くと、藍色で染められた花々の文様が一面を覆い尽くしています。チューリップや菜の花など50種類にも及ぶ四季折々の草花が型染で写実的に表現され、まるで植物図鑑を見ているかのようです。

芹沢銈介は静岡に生まれ、30歳代までその地で過ごしました。幼い頃から画家を志すも、家運の傾きにより夢破れましたが、東京高等工業学校(現東京工業大学)図案科で学んだことが、後の多岐にわたる作品制作につながったといえるでしょう。

結婚して婿入りした芹沢は、妻方の家業が安定していたため、勤めに出る必要がなかった時期がありました。この頃の芹沢は、毎日朝ご飯をすませると自転車に乗って写生に出かけたそうです。その時期に描いたスケッチは積み重ねると1m以上あったと夫人が回顧していますから、結婚直後から職に就く翌年までの約1年半、飽くことなく近郊の風物を描き続けたのでしょう。このスケッチは戦災で焼失したため今見ることはできず、残念なかぎりです。

この「草花図二曲屏風」は1938年頃、東京に工房を移した直後の作品です。制作には下絵を描き、型紙を彫って染色するという一連の工程がありますが、これら草花文は、下絵を描く前に全て写生を行っていたと思われ、静岡時代に描きためたスケッチ画もきっと参考に用いたのではないでしょうか。

Fig.2 部分(チューリップ)

屏風に描かれている藍色で染められた植物を分かる範囲でご紹介したいと思います。

右扇 右上から順に
ひえ、タンポポ、紫つゆ草、菊、鶏頭
鉄線、牡丹、月見草、くず、どくだみ
[?]、カーネーション、朝顔、はまなす、ねぎぼうず
[?]、蓼藍、立葵、ほたるぶくろ、[?]
菜の花、百合、チューリップ、[?]、ヤマツツジ

左扇 右上から
つる日々草、椿、けし、むくげ、カヤツリ草(ヒメクグ)
水仙、ぼけ、はす、桔梗、ハイビスカス
オオアラセイトウ(紫花菜)、おもだか、朝顔、花菖蒲、[?]
桜、カキラン、きんしばい、鶏頭、撫子
梅、藤、木蓮、[?]、ツルレイシ(にがうり)

Fig.3 部分(菜の花と蝶・蓼藍)

モチーフが分からない[?]の部分もありますが、特別な花というよりは、庭先や自転車で出かけられる近郊の範囲に1年を通じて生育する植物が配されているように思われます。また草花の間の丸紋には、亀甲や紗綾形の日本の伝統的文様や貝殻やトンボなどを見ることが出来、藍色と組み合わされた朱色や渋木・薄墨の配色バランスも絶妙です。

この作品は静岡市立芹沢銈介美術館にも所蔵されていますが、草花の配列の一部と丸紋の色が異なっています。(静岡市立芹沢銈介美術館所蔵の丸紋は全て朱色)どちらが先に制作されたかは不明ですが、一度染めた作品の配列や色彩を変えていく芹沢のこだわりがみられる屏風といえるでしょう。

この作品は4/4~の「北国の染織」に出品されていますし、屏風の中だけでなく春の東北福祉大学構内も花が咲き誇ります。4月上~中旬には桜、5月に入ると藤やつつじなど、色彩の美しさだけでなく香りも楽しめる季節ですので、是非作品と景色を楽しみにいらしてください。

東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館  学芸員 奈良 綾

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