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来年の干支の動物「トラ」について

2010年の干支は、「寅(トラ)」です。「トラ」は、食肉目ネコ科最大の動物で、アジア大陸に生息しています。昔からアジアの文化の中で、力や尊厳の象徴として扱われてきました。仙台市八木山動物公園では、インドネシアの熱帯雨林のスマトラ島に生息し、絶滅に瀕しているスマトラトラの雌1頭を飼育展示しています。今回は、[和名]「トラ」、[英名]「tiger」、[学名]「Panthera tigris(パンテラ ティグリス)」の由来について紹介しましょう。

[和名]「トラ」の語源は、『日本釈名(にほんしゃくみょう)』 (貝原益軒著、江戸中期の語源辞書)には、「トラは捕(とら)ふるなり。人を捕(とら)ゆる獣なり」と書かれています。しかし、いろんな説があるようです。『大言海(だいげんかい)』(大槻文彦著)には、白鳥庫吉先生の説として、古代高麗の言語の「トラ」をさす「ツルポオム」のツルがツュラになり、「トラ」になったと書かれています。ツルは毛の斑紋のこと、ポオムはトラやヒョウをさす言葉だそうです。因みに、著者の大槻文彦氏は、宮城県仙台第一高等学校の初代校長です。朝鮮語の「ホーラ」(ホーラギ)からとする説もあります。最後の「ギ」はgiとはっきり発音するようなものではなかったようで、日本人の耳には「ホーラ」と聞こえていたようです。更に、中国で、福建から広東にかけての華南地方では、古く「トラ」のことをタイラと呼んでいました。このタイラが「トラ」になったという説もあるそうです(『動物名の由来』中村浩著)。

[英名]「tiger」の語源は、ラテン語の「tigris」から来ています。この「tigris」はメソポタミア文明発祥の地、ティグリス川の「ティグリス」と同じ発音で、「とても流れの速い川」という意味があります。昔は、カスピ海周辺(メソポタミアに近い地域)にたくさんのトラがいたはずで、トラの敏捷性や力強さが「tigris」と結びついたと考えられます。因みに、インドネシア語・マレー語では「ハリマオ(harimau)」といいます。「ハリマオ」と聞けば、年配の方々は『快傑ハリマオ』を思い浮かべることと思います。1960年から約一年間日本テレビ系ほかで放送されたテレビ映画です。抑圧される東南アジアの人々を解放すべく、正義の使者ハリマオが活躍します。第2部以降のオープニングには、「ハリマオとは? マレー語で虎のことである」というテロップが表示されました。

「トラ」には現在、9亜種が知られていています。亜種とは、種の下の生物学上の分類階級です。ある特定の地域に生息し、形態や生態の特徴を共有している集団のことです。北方に生息しているものが南方のものよりも体が大きく、『ベルクマンの法則』(広い地域にわたって分布する動物を、生息地域別に比較した時に共通して見られる法則)に「トラ」も該当します。これは、体温維持に関わって、体重と体表面積の関係から生じるものです。9亜種の[学名]は、以下の通りです。

[学名]「Panthera tigris」のPantheraは「すべての=パン、肉食獣=テール」、すなわち「完全な狩人」という語から、ヒョウ属をあらわします。因みに、「ライオン」はPanthera leo(パンテラ レオ)です。

ベンガルトラ(インドトラ):[学名]「Panthera tigris tigris」。

シベリアトラ(アムールトラ):[学名]「Panthera tigris altaica」。 *altaica:ロシアの西シベリアのアルタイ地方の意味。

アモイトラ(華南トラ):[学名]「Panthera tigris amoyensis」。*amoyensis:中国大陸南東のアモイ(厦門)の意味。

インドシナトラ:[学名]「Panthera tigris corbetti」。*corbetti:著名なハンターでトラ保護に尽力したJim Corbett氏に敬意を表して命名されました。学名で人名に因む種名をつけたとき、国際動物命名規約第三十一条では、現代人名から形成される種グループの名称には、人名が男性のときには-iで終わらねばならないと規定しています。

マレートラ:[学名]「Panthera tigris jacksoni」。*jacksoni:最近の遺伝子分析によって、従来は一つの亜種だと考えられてきたインドシナの「トラ」達が、実は二つの亜種に分かれる事が確認されました。新しい亜種は、「トラ」の保護に力を注いだPeter Jackson氏に敬意を表して命名されました。

スマトラトラ:[学名]「Panthera tigris sumatrae」。*sumatrae:インドネシアのスマトラ島の意味。

バリトラ:[学名]「Panthera tigris balica」。*balica:インドネシアのバリ島の意味。

カスピトラ:[学名]「Panthera tigris virgata」。*virgata:「シマ」という意味。「トラ」の中で最も体のシマの数が多かった。因みに、シマが四本あるところから、日本にすむシマヘビはElaphe quatrivirgataといいます。

ジャワトラ:[学名]「Panthera tigris sondaica」。*sondaica:スンダ語でインドネシアのジャワ島西部の意味。因みに、ジャワサイはRhinoceros sondaicusといいます。

うち、現存しているのはベンガルトラ・シベリアトラ・アモイトラ・インドシナトラ・マレートラ・スマトラトラの6亜種です。

仙台市八木山動物公園 学芸員 阿部敏計

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